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2013年9月23日 (月)

半沢直樹は面白かったけれど、ツッコミどころも多かった

半沢直樹は今シーズンのドラマではダントツに面白かった。だけど、特に後半はビジネスマンとしてIT業界や経営に携わってきた者として、「ありえないでしょ、それ」という設定があまりに多いために説得力を失って、純粋に楽しめなくなっていました。つまり、ヒューマンドラマとしては最高に面白かったけれど、ビジネスドラマとしては落第ということ。

友人の多くからは、「あれは漫画みたいなものだから、そんな細かいこと言わないでも」と言われました。でも原作者も脚本家も関係者もいいかげんなフィクションのつもりではなく、リアルなビジネスドラマとして作っていたと思うし、世の中が大絶賛しているものに違う視点でものを言うあまのじゃくが一人くらいいてもいいだろうということで、あえて書かせていただきます。

その1:
Ogiso裁量臨店で資料を隠して行員を陥れるという、人事部長としては最もあってはならない不正を行った小木曽が、懲戒免職にならず出向で済まされるとはありえない。

業績不振や事故ならいざしらず、明らかな悪意を持った不正を行っても身分が保証されるほど銀行は甘いところではないだろう(これは後の大和田常務も同じ)

その2:
Kurosaki西大阪スチールの計画倒産と東田社長の隠し口座の差し押さえに関して。会社破綻の際の債権には優先順位があり、租税債権は一般債権よりも優先されるのに、ドラマでは「早い者勝ち」になっている。

銀行同士なら早い者勝ちだろうが、銀行と金融庁はそもそも債権者として同格ではない。だから、仮に半沢が黒崎よりも先に東田の海外隠し口座を差し押さえたとしても、それは金融庁に没収されるはず。

その3:
Asano半沢に敗れた後、自らが出向させられる懲罰的な立場になってしまった浅野支店長が、半沢を本店へ栄転させる影響力があったとは到底考えられない

このドラマが正に描いているのは、落ち目の人間には目もくれないという銀行の姿。だとすると、浅野がいくら画策したところで、「お前、自分の立場をわかっているのか」と一蹴されるのがオチだろう。

その4:
たかだか一ホテルの予約システムの開発に113億円もかかるはずがない。仮にかかったとしても、一括前払いなどえはありえない。
IT開発というものは、通常、要件定義→設計→開発→テスト→導入→稼働というプロセスを踏み、開発で50%、納品で50%、またはこれくらいの大型案件になればそれぞれの段階で納品と支払いが行われるのが普通。

ドラマでは開発がどの段階まで進んでいたかは不明だが、仮に開発会社が破たんしても、支払いが終わってそれまで開発された成果物は発注主のものであり、完全には無駄にならない。

その5:
予約システム開発会社のナルセンが、特許侵害で訴えられただけで破綻するという設定になっているが、それはあまりにも単純すぎる。その特許侵害が伊勢志摩ホテルの予約システムに対するもののようだったが、まだ世の中に出ていない予約システムに対して、特許侵害を提訴できるはずがない。稼働していなければ損害はないので、賠償請求もできない。

そもそも「予約システムの特許」などはビジネスモデル特許と考えられ、設計製造技術などと比べると解釈が曖昧なので十分争えるし、裁判には長い月日がかかり、仮に負けたとしても修正すればいいだけの話し。訴えられただけで破綻していたら、世界中の会社はつぶれまくってしまう。まともな会社だったら、損害賠償保険にも入っているはず。とにかくこの予約システムに関しては、全くITビジネスを理解していない人間が書いた脚本であることは明白。

その6:
Oowada大和田常務が、頭取を失脚させ、自分がその椅子に座ることを狙って伊勢志摩ホテルの不良債権問題を計画したことになっているが、仮に頭取が失脚したとしても、封建的な銀行の中で、圧倒的少数派閥の常務が専務や副頭取を飛び越して頭取になれる保証は何もなく、むしろ別の人間を頭取に押し上げてしまう可能性の方がはるかに高い

あるとしたら不良債権問題の解決に大和田常務が具体的に大きく貢献したという材料が必要だが、それが「ホテルの社長交代を提案した」というだけではあまりにも乏しい。そんなに簡単に役員ごぼう抜きでメガバンクの頭取になれるはずがない。頭取に一番近い立場の副頭取という設定にすればもっと説得力があったのに。

その7:
そもそも伊勢志摩ホテルをつぶすために予約システムの特許侵害の提訴をするような好戦的なアメリカのホテルチェーンのフォスターが、もはや瀕死の状態になったホテルの資本提携に関して、突然天使のように豹変して伊勢志摩側の条件を全部飲むようなことがあるはずがない。伊勢志摩側に時間的猶予がなければなおさら強気に出るはずで、足元を見て徹底的に叩く方が自然だろう。そのライバルのホテルチェーンがフォスターを出し抜くために救いの手を伸ばすのだったらもっと説得力があったし、フォスターにも「倍返し」ができて面白かったのに。

その8:
数々の不正と銀行への背任行為を行った大和田常務を取締役に降格など、コンプライアンス上許されるはずがない。この脚本家もそうだけど、大体日本人のほとんどは「取締役」を「サラリーマンの上がり」の、部長の上の単なるひとつの格付けだと勘違いしているが、それは大きな間違い。

Photo

株主の立場に立って経営者を監視監督して取り締まるのが取締役の役割で、本来は業務執行者よりもはるかに誠実さが要求される立場。大和田常務が行ったことは刑事責任に問われる罪であり、このような不正を行った人間を取締役に留めておくなど、頭取の温情でどうにかなる問題ではなく、銀行という免許事業においては100%許されることではない

「倍返し」は流行語となったけれど、こうしてよく見てみると、小木曽人事部長、浅野支店長、大和田常務も懲戒解雇になるわけでもなく、すべて銀行での身分を保証されたままで、むしろ優しすぎる結末なのではないだろうか。少なくとも大和田常務は投獄されてしかるべきで、取締役へ降格という処分は軽すぎて、「100倍返し」にはほど遠い。

私は原作を読んでいないけれど、原作ではもっと色々と整合性が取れているらしい。ただ、テレビドラマの脚本を作る際に、ヒューマンドラマの面白さを損なわずに、現実の企業慣行と矛盾しない設定をすることは可能だったはず。ITビジネスのことを知らなすぎだし、法律やコンプライアンスに関する監修がいなかったとしか思えない。

ここに書いたことも、設定や説明を少し変えるだけで解決できたことがほとんど。面白かっただけに、そこが残念でならない。続編があるという終わり方だったので、続編ではぜひその辺をちゃんとして、このような「現実のビジネスをわかっていない茶番だ」などの批判を受けない、ビジネスマンの鑑賞に耐える脚本にしてほしい。

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